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鍵で止めるな心で止めよ

 Mさんは、足は達者である。
部屋から出れば施設内を一日中走り回っている。
そして、その周辺にあるもの、たとえばチョーク、画鋲、お金、植木の葉、お花、そして自分の便さえ口に運んでしまう。
トイレの汚水は自分のスリッパですくって飲んでしまうなど、異常行動が見られた。
それゆえ、もしも間違いがあってはと個室に入ってもらったのだ。そして鍵をかけた。

~中略~

 職員は全員、とにかく自由にしてみよう、ということで意見の一致を見て鍵をはずした。
そして、職員が専任でMさんを目で追うことにした。
ほんとうに危険な場合だけ止めることにしたのだ。

~中略~
 自分の子供や親であったらどうするか真剣に考え、本気になって対応すれば、自ずと良い結果が現れるはずだと信じて、職員一丸となって行動した。
 七か月近くマンツーマンのケアが続いたが、徐々に状態は収まる方向に向き、いくらかは職員の手から離れるようになった。
それまでの職員の努力は並大抵ではなかったが、一年後には本人の体力低下も見られるようになった。
しかし、激しい行動が失われたMさんを見ると、それまでの苦労はどこかに消えて、元気な時のMさんに戻って欲しいという気持ちが湧いて来る。
 Mさんからは、たくさんの勉強をさせてもらったのだ。
人間と向き合う福祉とは、こういうものだと思う。
一人ひとり違う人間に、私たちは教えられながら考え、本気になって心を伝えていかなくてはならないのである。
 やはり福祉は「考える福祉、心の福祉」でなければならないと私は改めて思ったのである。

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